闇崎/イナガキのゲーム雑記

雑食系おっさんゲーマーが壁に向かってブツブツ呟いてるよ

ボクと狩岡源(その1)

 人の縁というものは分からないものです。ガンドッグのゲームデザイナー・狩岡源先生との出会いは、まさしく偶然としか言えないものでした。
 
 あれはまだ、私が靴磨きを生業にしていた少年時代の頃の話です。
 その日のパン代にすら事欠く生活だった私にとって1冊5000円のハードカバーなんて夢のまた夢。ブックオフで薄汚れた文庫版ソードワールド(キャラシー分離済み)を買うのが最大の贅沢な、身も心も貧しい少年でした。
 ……狩岡先生と出会ったのは、忘れもしない。雪の降るクリスマスの出来事でした。
 仕事場である秋葉原の高架下からの帰り道。私の足はいつものように秋葉原RPGショップへ向かいました。
 ガラス張りのショーケースの中には、七色に光る電飾で飾られたルールブックが、華やかな表紙を輝かせて陳列されています。その様はまさしく宝石。
「うわぁ、N◎VAの新版だぁ! あっちにはSNEの新作……!」
 触ることすらままならないルールブックの山を見て、私の心の中はまだ見ぬ冒険に対する憧れが膨れあがる一方です。ですが、その時の私にはルールブックはおろか、10面ダイス一個買うお金すらありません。
「パパー! 上海退魔行買ってー!」
「いいともいいともー。“石田散薬”は情報収集のための技能だからなー間違えるんじゃないぞー」
 隣では、幸せそうな顔をした親子がルールブックを買っています。きっとこの後は家族で卓を囲むのでしょう。
 その親子がクリスマスのご馳走を食べながら和やかにセッションをする光景を想像し、続いて私は自分もそのような光景を想像……することはできませんでした。私は、親の顔も人の温もりすらも知らずにこれまで生きてきたのです。楽しくTRPGをする姿なんて、「ソーサリー!」シリーズを初見でクリアするくらい現実味のない出来事だったのです。
「寂しくなんか…ないやい……」
 そう、自分を誤魔化すかのように呟いていても、目からは自然に涙が溢れ出てしまいます。
「……帰ろう」
 これ以上惨めな気持ちになりたくなくて、足を出口へ向けた瞬間。
 ぽん、と大きく暖かい手が私の肩を叩きました。
 見上げれば、2mはあるかのような大きな男の人が、ニヤリと白い歯を光らせて笑っています。
「ボウズ。オマエ、TRPGが好きなのかい?」
 ……それが、狩岡先生と私の出会いだったのです。
 

(おわってます)